以下の文章は、私宛のEーMAILをご本人に確認を取って掲載したものです。
九州におけるルリクワガタ属、ヒメオオクワガタの生態が報告れています。
また、本文中にはありませんが私だけとても興味深い報告を
拝見させていただきました。


突然E-mailを差し上げる失礼をお許し下さい。

私は、Uと申します。現在名古屋在住の虫屋です。
私は昨今流行の大型クワガタよりも小型クワガタの方が好きで、特にルリクワガタ属
には15年以上とりつかれています。クワガタらくがき帳風に書けば、人生の半弱、
虫歴の6割近く追いかけ回していることになります。しかしながらルリクワガタ属を
少しでも扱ったHPはほとんど皆無で(自分で作れば良いのですが、十分な時間が
取れないためなかなか作れないでいます)、今まではあちこちの虫HPを覗き見しな
がらも、それらに返事など出すことはせず、傍観を決め込んでいました。ところが
今回約3週間ぶりに「福島県のクワガタムシ」を開いたところ「ルリクワガタ採集
記」なるものが出て、あまりの嬉しさにメイルを書いた次第です。

大晦日に行かれたそうですが、実は私もその日は福岡県でルリ、ニセコルリ、コルリ
を採集しておりました。福岡は一昨年まで住んでいた所で、実家も北九州なので、
帰省ついでの採集でした。遠く離れた場所で、大晦日という忙しい日に自分と同じ様
に冬山に入り、同じものを探して材を削っていた仲間がいたのかと思うと、
なにやら非常に嬉しくなってきます。

ルリも新芽に飛来した例はいくつかあるようで、私の仲間も目撃していますが、やは
りあまり一般的ではないようです。なぜ新芽にはあまり飛来しないのでしょうか?
飼育下では後食するので、野外でも必ず何かを後食しているとは思うのですが、
この点は今だに解明されていないようです。福島では可能性があるかも知れません
が、九州ではたとえ高木でも例年ルリが活動を始める5月中旬には全ての葉が完全に
出そろっており、高所の新芽に来ると言う説は少なくとも九州では当てはまらないと
思います。ちなみに交尾は産卵マークのあるような倒木や立ち枯れ上で、5月中旬か
ら6月(九州での場合)にかけて見ることができますので、今年探されては如何でし
ょう。

> ルリも新芽に飛来した例はいくつかあるようで、私の仲間も目撃していますが〜
>お〜!目撃しておりますか!

ルリの新芽飛来例は、月刊むしにも過去数例報告されています。確か最初の報告は
小倉直樹氏のもので月刊むし1982年134号だったように記憶しています。その後も
トチノキの新芽に飛来した例が2つあったように思います。(トチノキの芽に飛来し
た例は1991年250号と1992年252号でした。)同様にホソツヤの新芽採集例も
1989〜1992年あたりに3、4例は報告されていたはずです。もしお手元にあれば、
ご覧になっては如何でしょう。

>マルバネ(オキナワ)なんかは飼育下で後食して結構11月末頃まで生きます
>が、実際は?ですよね。

私はオキナワマルバネは飼育したことはありませんが確かにそうですね。野外と飼育
下ではかなり環境が違いますから。飼育下の方が一般に長生きですよね。オオクワガ
タも飼育下では結構5年くらい生きていますが、野外での寿命はほとんどが2年以内
(野外活動後、越冬できるのはせいぜい1年)で、3年(野外越冬2年)生きる個体
は非常に少なく、4年は皆無に近いのではないかと思っています。

>ちなみにルリは飼育だとどのくらい生きるのでしょうか?

私が飼育した限りでは、活動を開始すると雄は長くても1カ月ですが、雌で長いもの
では2カ月弱生きていました。ですが比較的短命な虫のようで、雄の多くは3週間以
内で、雌もほとんどは1カ月程度で死んでしまいます。尤も野外では気温も平地とは
随分異なりまし、使用しているエサも自然界のそれと比べて(野外で何を食べている
のかわかりませんが)、栄養的に合っているのか否かもわかりません。したがって自
然状態を反映しているとはとても言えず、あくまで飼育下での寿命です。

野外活動に入ってから自然界でどれほど生きるのかは未知です。九州でのかなり遅い
野外目撃時期としては7月中旬がありますが、その個体がいつ活動を開始したの
かわからないため推測程度しかできません。しかし雌雄とも非常に活発な虫で、
特に雄はよく飛翔する上、終始落ち着きなく動き回わり、交尾欲も非常に旺盛ですの
で、”活発な生物は呼吸量が多くなることから、活性酸素が発生しやすく、代謝速度
や老化が早まるため一般的に短命なものが多い”というセオリーからいけば、自然界
での活動開始後の寿命は、外敵等の存在も考慮してせいぜい2週間〜1カ月程度では
なかろうかと思っています。

ホソツヤルリの新芽採集の昔の報文で、コルリの発生時期が終わった後、新芽がほと
んど開ききった葉(新芽とは言えませんが)に飛来していたというのが1990か91年
にあったのですが、案外ルリも新芽ではなく、開ききった若葉に飛来しているのかも
しれません。もしそうであれば九州でも発生時期と新葉との時期は合いますし、高木
の上部にいては目が届かず、注意もいかない盲点と言う意味で合点がいきます。一応
私は九州で探してみたのですが、ダメでした。

>そちらでは、ルリやコルリの発生時期にズレはあるのでしょうか?
>福島の場合、5月末〜6月頭がコルリの発生の時期なのですが
>ルリはちょっと遅れるのかな?

名古屋は昨年来たばかりでなんとも言えませんが、九州や中国地方ではズレがありま
す。九州は春が早いので発生時期も早いですよ。コルリやニセコルリは例年5月の
GWあたりから(早い年では4月20日過ぎから)5月末頃まで、ルリは5月中旬
(早い年では5月上旬)から6月中旬あたりです。したがって5月の下旬であれば発
生期は重なっています。ただしこの時期のコルリに関しては新芽でなく、材返し採集
です。本州でコルリの新芽採集したことがある人は信じられないかもしれませんが、
九州のコルリ(ミナミコルリ)は今だ新芽採集でまともに得られていません。私の知
る限り1例1頭のみです。私も色々と条件を変え10年間チャレンジしてきました
が、結局材採集の多産地でさえ新芽では1頭も見ることはできませんでした。新芽に
来ないはずはないと思うのですが、どこかに誰も気づかない盲点があるようです。
したがって九州でのコルリ採集は主に材採集で、これが九州のコルリを最も採集しに
くい種にしている1要因だと思っています。

ちなみにニセコルリは九州でも新芽で採集できます。ただし、九州は例年5月上旬に
木々の新芽がほぼ一斉に、しかも短期間に開くため、新芽で狙えるのはせいぜい1週
間。普通の人ならその期間内の休みは2日。毎年微妙に変わるその時期の、しかも休
みで晴という日にはなかなか遭遇できません。ですが運よく当たると結構見つかりま
す。

>これは、♂♀単独で飼育した場合でしょうか?
>それとも交尾させてからでしょうか?

なかなか鋭いところにお気づきですね。
採卵の目的もあったためすべて雌雄一緒に飼育しました。一般に交尾をすると未交尾
と比べ短命になってしまいますよね(特に雄は)。未交尾であれば多少飼育下でも
寿命が伸びたかもしれません。ただし飼育したルリ属は、まず標本にはなりません。
交尾もさせないで、2ケタ以上の個体を飼育する勇気が今だ私にはないものですから。

>話は変わりますが、ヒメオオは柳やカンバ類に付くのが一般的ですが
>なんと草から吸汁していることもあるのですよ。
>函館の知り合いからも報告がありました。

草? ススキみたいなやつですか?? それは驚きです。
九州のヒメオオは結構なんでも食う方で、ヤナギはもちろんですが、ノリウツギ、
ウリハダカエデ、ミツバウツギ、タラノキ、クサギ、ノブドウ、ヤシャブシ、
クマイチゴもかなりの支持を得ています。この中で草っぽいと言ったらクマイチゴ
ぐらいですが、あれも草じゃないですし。九州も探せば草にもいたのかもしれません
ね。ちなみに昨年の本州ではヒメオオ全敗でした。本州は九州より多いと聞いたので
すが。

>材返しですか?
>私はやったことのない採集のしかたですね。
>言葉通りに材をひっくり返してさがすのでしょうか?

そうです。新芽技が通用しない九州のコルリはもちろん、新芽に来るニセコルリも春
から初夏にこの方法で採ることができます。秋にマークが付いているような材を
そっとひっくり返してみるのです。産卵中の雌や材上で陣取って雌を待ち伏せしてい
る雄、交尾しているものが見られます。産卵シーンも見ることができます。
時期は新芽が終わった頃からがよりよい様ですが、新芽の真最中でも足元の材に
結構ついています。新芽では雌はなかなか採れませんが、これなら雌も雄も採れる上、
秋の採集と違って、落葉の上に落ちた比較的新しい材でも構わないので楽です。

皆が上ばかり見ている時に足元でも数を稼ぎ、もう新芽は終わったと言って誰も
行かなくなったときも一人採集することができます。さすがに新芽のように100頭な
んて数は無理ですが、慣れると20以上はいけますよ。新芽のように期間が短くなく、
条件もうるさくないので、今年試されてはどうでしょう?

>そして、♂が多いですね。(ヒメオオについて)

雄が多いとは羨ましいです。九州では断然雌が多かった気がします。
キュウシュウヒメオオは確実に採れる採集地が限られ、いずれもガタガタの
ダート林道を7km近く登らねばなりません。数年前は一日歩き回って雄が15も
採れればラッキーでしたが、最近は富に採れなくなってきています。これは主に九州
の採集地が伐採跡地で、伐材の切株から一時的に大量に発生していたためと思われて
います。広く分布するのですが、他の場所では秋のヤナギ等でなかなか採れないた
め、皆、大木の堅い堅い朽木から力技で叩き出しているようです。それで出てくるの
がちんけな雄ばかりですからやってられません。

>夜ですか!うーん。
>面白い発想ですね。

もちろんこれは無理な発想です(というより、一度やってみたんです。
もちろん採れませんでした。というより何もわからなかった。)
九州でも好天日に必ずどこかにいるはずです。

>私のすんでいる所は、宮城、山形、足をのばせば新潟まで
>採集にいけるのですが、どうしても効率の良い所に行ってしまいがちです。

新潟、山形のコルリはいいですよ。あれは本当にいいと思うな。


と言うことで、標本交換の話がまとまっていくのでした、、、。

参考文献『月刊むし(号に付いては上記を参照して下さい)』